The minstrel of wandering yousyou - Last Stage - Lineage
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一つの物語
-------------------------- 「WIZの装備、いるか?」 魔法使いである私が「歌う島」に降り立ったのが今年の8月も末の事。 その数日後に島の浜辺で、一人のプリンスにこう話し掛けられた。 右も左も分からない駆け出しのウィザードの私には、有り難い申し出であり、 拒否する理由が全く見当たらなかった。 唯一つを除いては。 其れまでにも、所謂プリンスという人間が島の至る所で 「勧誘」を行っているのを目にしている。 次にそのプリンスから出てくる言葉を私は、半分予想していた。 が、彼の放った言葉は、その安易な期待を全く裏切るものであった。 「見た所初心者の様だが、うちのクランには誘えないな」 彼の血盟がPKも辞さないスタンスである事。 いついかなる時も死と隣り合せである事・・・ それ故、初心者である私には、薦められないクランである事を。 簡潔に短い言葉で、ややもすると冷たい言葉で。 それから暫くは、私は一人で島内の様々な場所での経験を積んだ。 本土への入口である「話せる島」にも行き来するようになった。 様々な魔法も習得し始めた。 そんな折に、島内(これはもう「話せる島」での話だが)で、 嫌でも私 の耳に飛び込んでくる名前があった。 「歌う島」で話し掛けて来た、彼の名だった。 -------------------------- 同時に、彼の噂や、そのスタンスも私の耳には入ってきた。 それは決して良いものではなかったが。 「PK反対」「ネタクラン」等等 私にはどうしてもそうとは思えなかった。 その頃の私は、既に「歌う島」を卒業するのに十分な経験を積んでいた。 魔法もあらかた習得していた(その時点で、であるが)。 やることはやったという過信があった。 が、それよりもなによりも、彼のそのスタンスが、私の琴線に触れていた。 「ここは冒険者の世界だ。この世界ではいつも死と隣り合せだ。 殺さないでくれ?何を言っているんだ?そうやって怪物共にもお願いするのか?」 私は「話せる島」の商人パンドラから便箋を購入し、彼に手紙を送っていた。 最初は彼と二人きりの冒険だった。 彼は私の知らない世界を、 私の知らない知識を、 私の知らない魔法や装備を、 薬を、 スクロールを、 そして成長というものを与えてくれた。 それは決して優しい言葉ではなく、また優しい経験でもなかった。 何度も瀕死の状態となった。 正直、彼の冷たさを嘆いた事もあった。 しかし少しずつ、私はこの世界をより深く知る様になる。 彼が与えてくれた様々が、決して安くはない事。 それどころか現在の私が入手するには不可能な程、高価である事。 彼の収入が決して裕福ではない事など。 と同時に、最初はほぼ2人であった血盟も、少しずつではあるが賑やかになる。 彼のスタンスに協調する同志が増えだしたのだ。 しかしそれは同時に、敵対する存在の増加も意味している。 やがて、始めて彼に出会った時に言い放たれた言葉が、 現実のものとなる機会も遣って来る。 それも繰り返し。 しかし(他の冒険者からすると全く理解できない感情であるらしいが)、 私には居心地が良かった。 何より自由があった。 信頼出来る冒険者がいた。 冒険の途中での、何気ない彼らとの遣り取りと、 彼の其れに対する、最初と全く変わらない、醒めた視点が、 妙に心地よく感じた。 -------------------------- そんな毎日が繰り返される中、私は私なりに成長していった。 少しずつではあるが、活動するフィールドも広がって来た。 装備も充実してきた。 魔法も習得し、ウィザードとしても、それなりに一人立ち出来つつあった。 適度な緊張感を伴う、最高のその居心地の良さ。 ずっと続くと思った。 「引退」 それは正に晴天の霹靂だった。 安易な私の考えは、再度ここで打ち砕かれる。 正に急転直下。 私にとっては最初の、そして血盟にとっては最後の戦争があった。 彼は彼の装備を、莫大な数の道具を、 血盟員だけでなく、広く冒険者たちに、安価に提供した。 そして彼は文字通り、裸一貫となった。 「これが現実なんだ・・・」 私は混乱していた。 -------------------------- 自分で自分の状況をよく理解出来ていないそんな折り、血盟員で集まったその時に、彼は、皆の前で私に言った。 「Youには別に渡すものがある」 他の冒険者にも、毎々が何かしらを譲渡されていた。 そしてそれは、今の私であれば十分過ぎる程、理解できるものであった。 非常に高価で、今の私でも簡単には入手出来ない物ばかりであった。 その中で、私に渡されたもの。 初心者が使う魔法書数十冊 サファイア2個 他の冒険者に譲渡されたものと比べると、 それこそ比較にならない程の、言ってしまえばどうでも良いもの。 「これを渡す意味は、自分で考えろ」 そして血盟は解散の日を迎えた。 -------------------------- 最初は、全く意味が分からなかった。 しかし、今なら分かる気がする。 ある女君主は、こんな私にも暖かい誘いの言葉を掛けてくれたりもした。 非常に暖かい、今の私の心には染み入る言葉だった。 何れ私も、再び何処かの血盟に所属する事もあるだろう。 そのときに、私の様な初心者がいたら、きっとこう言に違いない。 「WIZの装備、いるか?」 そして、私はまた、この世界で放浪の旅に。 2003年11月06日 09時59分28秒 http://www.geocities.jp/yousyou/index.html http://www.geocities.jp/yousyou/index2.html ▲
by yousyou1208
| 2003-11-06 09:59
| A story
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